極寒からの生還

アメリカ、ジョージア州アトランタで起こった動物に纏わるお話。

とある冬、例年以上に寒い日が続いていました。

極寒のアトランタ

その年アトランタがどれだけ酷い状況だったかのか説明すると、雪はたったの2cm程しか積もってませんでしたが、その後に雨が降り、氷点下の凍りつく寒い外気で雨が氷の膜となり、道路コンディションは最悪、まるでスケートリンクのようになりました。

車で外出をするなんて自殺をするのも同然でした。

アトランタには500万人の人口に対し、8台の除雪車しかありません。町は閉ざされました。

この1週間、市内の全ての学校は休学となりました。子供にとっては嬉しいことのようですが。

外は地獄のような環境下。誰も外出することが出来ませんので、みな家族でこのひと時を楽しんだようです。

私の娘は学校がないことに大はしゃぎ。ソリをしたり、雪だるまを作ったり、映画を見たり。

ある意味では雪の恩恵を受けた形になりました。

私は、友人から大きくて茶色のピットとマスティフのミックス犬が、この大寒波の中近所を彷徨っていると聞いていました。

私の娘がその犬をベンと名付けると、皆がその犬をベンと呼ぶようになりました。

ベンは痩せこけ、とてもナーバスになっている様子。近所の人もベンを捕まえようと試みましたが、すぐ逃げてしまって誰もベンに近づくことは出来ませんでした。

近所の誰かが裏庭にベッドを用意し、1日2回大量の食事を与えているようでしたが、この親切も実らず、ベンを保護することは出来ませんでした。

吹雪はどんどん酷くなって行きます。気温も下がって行きます。

ベンは震えながら立ち尽くし、どこかの家に入るのも怖がり、人が近づくのも怖がっている状況。

誰もが「あの犬は寒さで死んでしまう」と心配していました。

ベンは餌だけは食べているようでしたが、この寒さでの影響で体調は明らかに良くありません。ケガもしている様で、片足を引きずっていました。

雪と氷で、犬はこのまま悲しい結末に向かっているようでした。

ベンの人間嫌い

ベンがいる場所は私の家からさほど遠くなかった為、ベンを探しに私は車に乗り込み、細心の注意を払い彼が最後に目撃された場所へ向かいました。

そこに着くと直ぐに足を引き摺りながら藪の中を歩くベンの姿を見つけました。

エンジンを切り、車を降りてベンのそばまで近づこうとするも、ベンはこちらに気付き逃げてしまいました。

凍った路面を滑りながらも転ばないようにベンがいた所まで行くと、彼の形跡を辿れました。大量の血が森に向かっていましたから。

彼の足は明らかに酷い状態でした。恐らく氷で切ったのでしょう。

氷はとても鋭く尖り、犬にとってはまるでガラスの上を歩いているようなもの…。

ベンに餌とベッドを与えていた近所の方が私を家に招いてくれ、ベンが寝ていた場所、餌を食べていた場所を見せてくれました。

ベンは毎晩ここへ来て、時には昼間にも来ていたようです。

温かい食べ物を食べて、心地の良いベッドで寝ていたようです。ただ、とても寒かったのでしょう。

餌を食べてはいても、寒さで弱ったベンは骨と皮しかありませんでした。

私たちが話していると、視界の隅のほうに背の高い、ヒョロヒョロの犬が森からこちらに向かってくるのが見えました。

ベンは私たちが窓越しに見ているのに気づいたようで、こちらに向かって吠え、引き返して行ってしまいました。

私は温めたキャットフードを持ち、ポーチに出ました。(犬にキャットフードを与えることは勧めませんが、この匂いと味は犬の大好物で、野良犬を捕まえたいときには役に立ちます)

ポーチに出て待っていると、ベンが食べ物の匂いを捕らえ、鼻を鳴らしながら私に向かってきました。

私から全く目をそらさず、ベンは近づいてきます。

私は動かずただ餌の入ったボウルを持つ手だけをベンの顔に伸ばしました。

ベンはボウルに飛びつき、不審がりながらも餌を食べ始めました。

ただし、私がほんの少し動くと警戒心からすぐに逃げ出しました。

捕獲大作戦

友達のロウラ・ジャンセンは全米動物虐待調査兼予防団体の監督をしており、人道的な罠を持ってきて来てくれました。

私たちはこの罠をこの夜のうちに仕掛けました。

ベンを捕まえて彼の悲劇に幕が下りることを確信してました。

この夜、気温はさらに急激に下がりました。

私たちは、この凍える寒さの中で必死に生きようとするベンのことを考えると眠れません。

残念なことに翌朝ベンは、アウトドアチェアの上で寝ていました。賢いため、罠にはかかりませんでした。

息遣いはとてもぎこちなく、体力の限界でしょうか。彼のために用意された食事はほとんど残されていました。

近所の人たちはベンを助けるために寝ずに番を続けましたが、恐らくあと1晩も持たないだろうと考えていました。

「時間はない」一刻も早くベンを捕まえなくては。

この時、獣医が到着しました。

ベンを捕まえることがとても難しいことはわかっていたので、獣医は食べ物に鎮静剤を入れ保護する方法を選びました。

ベンのアドレナリンが鎮静剤の効果を打ち消す可能性はありましたが、試す価値はあると思いました。

ベンが何とか食事をしている中、私たちはずっと見守り続けました。

この作戦は見事成功しました。

2時間後、ベンは目覚めました。

しかし状態は相変わらずで、人に対する警戒心をほどきませんでした。

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犬には犬

私たちはベンの警戒心をどうにか解けないかと悩みました。

近所の人は私に「もしこの野良犬が私たちに懐かなくても、犬たちとは仲良くなれるはずだ」と言いました。

ベンは明らかに人間より犬を信頼し仲良くなるタイプ。私の友達のロウラ・ジャンセンが飼っている「犬のジョージと裏庭に行って遊ばせよう」これは賭けでしたが、まさにその通りでした。

最初この野良犬は自分に寄って来る懐っこい黒いラブラドールレトリバーと何もしたくなさそうでしたが、しかしこの時とても美しい光景が目の前に広がりました。

ベンが徐々にリラックスし始めたのです。

私と獣医は精神安定剤の吹き矢を持って見守っていましたが、ベンはロウラとジョージに近づいていき自ら触れ合い始めたのです。

ゆっくりとロウラが手を伸ばすと、その手はベンの頭を撫でました。

ベンはロウラに近づき、頭をスリスリとロウラに押し付け、最終的にはロウラに体を預けました。

ロウラは繰り返しベンの頭を優しく撫でます。

もうベンは一切逃げる様子を見せず、彼女をしっかりと見つめていました。

“私は頑張って生きた、一緒に家に連れて帰って”と言っているようでした。

弱っているベンを獣医に診てもらっているとき、ベンは私の膝に頭を乗せて眠りに落ちていきました。

最低でも1週間の過酷な冒険でベンは消耗していましたが、やっと暖を取ることが出来ました。

現在、ベンは動物保護団体の施設で暮らし、そこでたくさんの犬や人間と仲良く暮らしています。

私とロウラは地方の朝の情報番組“ペットの里親になろう!”という番組にベンと共に出演しました。

ベンはスターのようにカメラで撮られ放送されました。

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私たちは、この施設以外のどこかに必ずいる、ベンにとって最高の家族を見つけなければなりません。

あの窮地を生き延びた強く優しいベンは、必ず永遠の家が見つかると何の疑いもなく信じています。

via:POSITIVELY